女は黙って足を診る

女は黙って足を診る

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内科医師 松谷久美子
私は診察室で足を診ることが多い。

たくさんの足たちをこれまで診てきた。
足を診ると名前がわかる常連の足もある。
足フェチといってもいいのかもしれない。
聴診器をあてず、足だけを診ることもある。
始めてお会いして「両足を出してください。」

というと、たいていの患者さんはうろたえる。

服を脱ぐことはあっても靴下を脱ぐとは思わないのである。
ききまちがえて、あわてて舌を出してしまう人もいる。
「いいえ舌ではなく足です」ともう一度宣言する。

「ええなんでえ」

という腑に落ちない顔つきで、靴をはいたまま足台に足を乗せてしまい、覆っている洗いさらしの青布を泥だらけにしてしまう人もいる。

「いえ、靴も靴下も脱いでください。」

さらに断固として宣言すると、やっと恐る恐る裸の足を出してくる。

私は待ってましたとばかりに手袋をつけてその両足をなで、
(ここでふふふと笑ったりしてはもちろんいけない)
皮膚温、足背動脈、アキレス腱、前頚骨部とさわっていく。
そして、その両足の来し方を検証し、行く末を想像するのである。
それは糖尿病医の醍醐味であり、短時間ではあるが至福の時が流れる。
足たちには患者のまさにこれまでの歴史が刻まれている。
いろいろな情報が向こうから私の方に歩いてやってくるのである。

糖尿病の皆さん、私に一度足を見せてくれませんか?
Give me your foot!

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